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いまも鞍をつくり続けるエルメスのこだわりとは

19世紀の前半のパリで「セリエ」(馬具商)として店を開き、当時のヨーロッパ中の王侯貴族たちに愛用される一流ブランドとなったのがエルメスだ。自動車や汽車など、交通手段の発達によって馬車や馬具の需要が減ると、それまでの革細工の技術を生かしてバッグづくりに方向転換、革小物をふくむ総合ファッションブランドとして20世紀を生き抜いてきた。それでも創業当時の家業への誇りは高く、馬具製造を中止しているわけではない。それを裏づけるように、いまだにパリ本店の看板は「セリエ」のままだ。馬がここまで会社を育ててくれたという思いから、1980年代に入って、歴史ある「ディアンヌ杯」という競馬レースのスポンサーとなったことからも、その姿勢をうかがい知ることができる。いまもエルメスがつくりつづけている馬具が鞍。「スポーツエレガンス」というエルメス美学の象徴でもある。馬術用、競走用、狩猟用など用途別に10種の標準品があるが、オーダーメードも受けつける。オーダーメードには創業以来の通し番号がふられていて、そのナンバリングは創業以来50年を経て3万7000近くになる。たとえ標準品といえども、ひとりひとりの体形にあわせて微調整されるから、これまでにつくった鞍にはひとつとして同じものはないという。鞍づくりは、工程すべてをひとりの職人がおこない、製造年と職人の名が刻印され、その記録が工房に残される。体形がかわったり、初心者だった使用者が熟練してきて使いづらくなったときに連絡をすれば、同じ職人の手によって再び調整しなおすアフターサービスも完璧だ。ナンバーワンブランドは、結局オンリーワンを提供しているということになるだろう。